エジル選手、代表引退へ —背景と社会への影響について—【ドイツ事情|サッカー】

サッカーのドイツ代表、メスト・エジル選手が、7月22日に代表引退を表明をしました。1週間以上が経ちますが、依然として連日の多くのニュース記事が公開されています。

目次

ドイツ社会におけるエジル選手とは

エジル選手は、もっとも有名なトルコ移民系ドイツ人の一人で、戦後ドイツが大切にしてきた価値観でもある「Integration = 統合」の象徴とされている人です。

特に2014年のW杯でドイツが優勝した時は、多文化共生が機能している寛容なドイツの顔であり、スポーツがいかに効果的であるかを証明している代表的な人物でした。要するにドイツにとっては自慢のアイコンだったのです。

それが、今回「人種差別や軽蔑を感じながら、ドイツのために国際舞台でプレーすることはもうできない」とドイツ代表を引退することを表明し、ドイツ社会に大きな波紋を広げています。

そもそもの発端は・・・?

こちらの記事にも詳しく書きましたが、先のワールドカップ・ロシア大会の直前に、エジル選手とギュドアン選手がトルコのエルドアン大統領と一緒に写っている写真がSNSで拡散され、強い批判を浴びています。

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批判された理由は、大まかに分けると2つ。

まず、トルコとEU諸国(ドイツも含め)との関係が緊迫していて、エルドアン大統領は独裁的とされています。しかも、エルドアン大統領はちょうど大統領選挙の最中にあり、政治的利用だという意見が多数ありました。

もうひとつは、両選手のドイツ代表としての自覚が足りないのではないか?という声。君たちはトルコ人なのか、ドイツ人なのか、白黒はっきりしろと言わんばかりの、忠誠心を求める声とも取れるかもしれません。

ギュンドアン選手は、この騒動直後にコメントを発表したのに対し、エジル選手は引退発表までコメントは控えていました。

ドイツ代表、まさかの予選リーグ敗退

ワールドカップで良い結果を出していれば、ここまでは大きな騒動にはならなかったのかもしれませんが、ドイツ代表は予選リーグで敗退してしまいます。そして、エルドアン大統領との写真騒動がまるで原因であるかのように分析するメディアも少なからず出てきました。

さらに、トルコ系というだけで言われなき誹謗中傷。しかも、エジル選手のコメントに寄ればサッカー協会のグリンデル会長からも差別的な言葉があったということです。

エジル選手の引退表明の評価

ずっと沈黙を守って来たエジル選手ですが、ここへきて代表引退宣言。それを統合どころか、人種差別がまかり通っている現状への警報だと捉える人もいますが、一方で、あのタイミングでエルドアン大統領と写真を撮ったことに関して、「彼に敬意を表しただけで、政治的意図は全くなかった」と主張するのはナイーブだという指摘もあります。こちらは同じくトルコ系ドイツ人の国会議員によるツイートです。

正直、私もそう思います。ただ、本人が分かっていなかったとは思えないんですよね・・・。ドイツのサッカー選手として結果を残し、難病と戦う子ども達たちや移民の子どもたちを対象とした慈善活動にも励み、十分に任務を果たしてきました。

トルコとドイツ、二つの祖国

一方で、家族にはトルコ人であることを忘れるなと言われ続けきたということです。彼にはふたつの祖国があって、それは比べられるようなものではないんだと思います。その気持ちを汲み取ってもらえないことへの絶望感もあるのではないかと思います。

それが、彼の「僕らは勝てばドイツ人で、負ければ移民なんだ」という言葉に現れているような気がしてなりません。

彼の引退表明は、ドイツが今まであまりケアしてこなかった問題(…それこそ教育制度にも不備があったのでは?という視点の記事もありました)や、ここ数年にわたって強くなってきたポピュリズムの台頭を感じる出来事でした。

ドイツサッカー協会とエジル選手、決裂は誰の責任?!

Tagesschauというドイツの国民的ニュース番組では、こんなアンケートを実施していました。設問はふたつ。「ドイツサッカー協会とエジルの決裂の誰の責任か?」「インテグレーション(統合)は誰がイニシアティブを取るべきか?」

その結果によると、ドイツ人(※1)の47%はドイツサッカー協会とエジル選手の両方に非があると回答しています。これは、なんとなく想像の範囲内なのですが、こちらのアンケートの面白いところは自分の支持している政党も合わせて聞いているところ。

政党別(CDU/SPD/Grünen/FDP/Linkspartei/AfD)の結果を見ると、AfD(ドイツのための選択肢)以外はどこも似たり寄ったり(半数が両方に非がある)なのですが、AfDだけは59%の人がエジルが悪いと答えています。だからと言って、差別主義者だと短絡的に結論づけるつもりはありませんが、それが多くの人が感じていることなのか、それともただフェイクニュースのような虚構の情報に惑わされて翻弄しているだけなのか・・・。この数字をどう受け止めるかは、とっても大事なことだと思います。

※1:
対象者:選挙権のあるドイツ人
方法:電話インタビュー
数:1047件
期間:2018年7月24日~28日

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この記事を書いた人

ドイツ生まれ・育ちのラジオパーソナリティー ・マルチリンガルMC ・通訳。27歳で日本に移住。現在TOKYO FM・JFN・NHK Eテレ(「旅するためのドイツ語」)にレギュラー出演中。

今までに勉強した言語は、日本語・ドイツ語・英語・ラテン語・フランス語・スペイン語・韓国語・中国語の8ヶ国語。

ペンギン・猫・映画 ・DIY・どら焼きが好き。

FM BIRD所属。

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