ドイツ”反マスク運動”の背景や問題点をまとめてみた

ドイツ語

2020829日、首都ベルリンで3万8000人が集まる大規模な反コロナ規制デモ(通称反マスク運動)が行われました。この日に起きたことは、シュタインマイヤー大統領が「許されることではない」とまで発言するほど。ただの反マスク運動ではありません。この記事では、このデモが、何がドイツにとって問題で、何が許されてはならないのかをまとめることを目的としています。また、加筆修正も行なっております。

Kampf um die Straße: Hygienedemo in Berlin (1/2)

反コロナ規制デモとはそもそもなんぞや?

要約

2020年8月29日、ベルリンで行われた反コロナ規制デモ。推定3万8000人が参加。参加者は老若男女、極左から極右まで幅広く、参加目的もそれぞれ。問題となったのは、極右グループがナチスの象徴としてしばしば使われるドイツ帝国時代の国旗を国会議事堂前で掲げたこと。そして、そんな極右グループが同じデモに参加していても気に留めない参加者の様子に危機感を覚えているメディア。行政も今後の対応について考えをまとめる必要があるとしている。

ハッシュタグ

#b2908

主催者や参加者はどんな人?

今回のデモが少し特殊な点は、多様な背景を持つ人々が同時に参加していたところです。老若男女(家族連れも多かったとか)、左派〜極右派まで様々。思想的には陰謀論者、ネオナチ、そして反ファシズム・アンティファに概ね分類できる。

主催者の中でもっとも規模が大きいのが、シュツットガルトを基盤とした運動団体Querdenken 711(代表:IT起業家ミヒャエル・バルヴェークMichael Ballweg)。2020年発足した団体で、コロナ規制について基本的権利や自由を侵害していると主張し、それらの解除とメルケル政権の辞任を求めています。

私の印象では、彼らのスタイルからしてどちらかというと左寄りの”コロナは風邪”論者だったのですが、調べていくうちにバルヴェーク氏の発言はどちらかというと右寄り・ポピュリストとの繋がりの方が強いことが分かってきました。また支持者も色々。

当日ゲストとして、ロバート・F・ケネディー・ジュニア(ケネディ元大統領の甥、弁護士・環境活動家・著者・反ワクチン派)がQuerdenken 711の舞台に登場し、12分ほどのスピーチをしています。「政府はコロナを利用し、恐怖を煽り、国民を支配しようとしている」「5Gは、監視社会を作るためのものだ」などと主張。その様子(動画)をQuerdenken 711の公式Youtubeチャンネルで見ることができるのですが、登録者数は2020年9月1日時点でなんと6.97万人!

その他、存在感を示したのは極右派グループ(”帝国臣民(Reichsbürger)”を名乗る人やNPD、AfD、Die RechteやDer III. Wegなどの党員・支持者)です。警官隊のバリケードを突破し、国会議事堂の階段を駆け上った挙句、ドイツ帝国時代の国旗を掲げました。この行為こそがシュタインマイヤー大統領に「許されてはならない」と言わせたものです。詳しくは後述します。

この界隈の著名人では、”国民の教師(Volkslehrer)” ニコライ・ネアリングNikolai Nerlingや、極右派陰謀論者に転身したヴィーガン料理家アティラ・ヒルトマンAttila Hildmannも参加していたようです。

また、反ファシズム主義者による対抗デモ(極右派に対抗)も開かれていて、彼らは「あなたたちはナチスやファシストと行進している」と呼びかけました。

目的は?

コロナ規制に伴い、主に移動が制限されていることや、(公共の場における)マスク着用を全国で義務化させた政府を「基本法に反する」と批判し、撤回を求めた、というのが大枠です。Corona-Diktatur(コロナ独裁政権)という言葉もよく見かけます。

基本法が制限されているのは事実です。もっとも、公衆衛生を守るために必要最低限の制限は法が認めています。

例えば、基本法第11条「移動の自由」→感染予防の為、好きなように旅行に行けない。第2条 「人格の自由、人身の自由」→スポーツが趣味なのに、密になるスポーツジムが営業停止にされていた、など。

これらの規制に対してやりすぎだと思う人は、基本法第5条が保証するように自分の意見を述べ、反対する権利があります。シュタインマイヤー大統領もそう言っています。

参考までに:
連邦政治教育センター「Das Coronavirus und die Grundrechte

開催前から懸念されていた?

ベルリン市当局は、デモの開催を規制違反が起きる恐れがあるとして却下しています。

先述のQuerdenken 711が主催した8月1日のデモの様子を前例として引き合いに出し、参加者がおそらく規定の対人距離(1.5メートル)を維持せず、尚且つマスク着用義務も守らないであろう=公衆衛生に影響を及ぼす可能性が高いというのが警察の言い分でした。

その決定について、主催者が基本法第8条「集会の自由」に反するとして異議申し立て。そして、ベルリン行政裁判所は、ベルリン市当局を覆し、主催者がコロナ規制を故意に無視し、公衆衛生を危険にさらすとは断言できないとして、条件を守ればデモ実施を認める判決を言い渡しました。ベルリン警察の判断は政治的だとして認められなかったのです。

何が起こったのか?

ベルリン市当局は3000人動員。緊張感溢れる中、当日を迎え・・・予想は概ね命中。マスクを着用している参加者はほぼゼロ。開始直後からコロナ規制を守れていないという理由でデモ解散を命令することになります。Querdenken 711主導のデモは座り込みなどの抵抗もあったものの暴力などには至らず、総じて”平和的”。彼らとしてもこれだけの人を動員したデモになったので(しかも、大統領までもがこのデモを受けて意思表明しているので)「大成功」と位置付けています。

問題とされているのは、極右グループによるロシア大使館前の暴動と、国会議事堂前の帝国国旗騒動です。

なぜロシア大使館かと言うと、極右的な思想の持ち主の中にプーチン大統領こそが”この独裁的な世の中を救ってくれる”と崇拝している人が一定数いるからです。(同じ理屈でトランプ大統領崇拝者もいます。)twitterで検索すると「プーチン、助けて!」と叫んでいる様子を収めた動画がアップされていました。警察にガラス瓶を投げつけるなどの暴動があり、アティラ・ヒルトマン氏含む200人ほどが逮捕されています。

国会議事堂前で起きた帝国国旗旗騒動が大問題な理由

一部の帝国臣民(Reichsbürger)や、ドイツ国家民主党(NPD)、ドイツのための選択肢(AfD)、右派党(Die Rechte)や第三の道(Der III. Weg)党員・支持者など、極右グループが国会議事堂に押しかけ、警官隊のバリケードを突破し、国会議事堂の階段を駆け上った挙句、ドイツ帝国軍軍旗(Reichskriegsflagge)をはじめとする様々な旗を掲げました。

そもそも国旗はとても政治的なアイテムです。ドイツでは、ナチズムの象徴である鉤十字ハーケンクロイツの使用は固く禁じられていて、もちろん、その当時の国旗は作ってもいけないし、売買も許されていません。代わりに、ナチスが政権を取った1933年〜35年までの2年間使用されたドイツ帝国時代の国旗(Reichsflagge)や、ドイツ帝国軍軍旗を象徴として極右グループは使っています。配色が黒・白・赤と同じなのも特徴で、ドイツ語ではSchwarz-Weiß-Rot(-Flagge)とも言われています。これらは禁止対象ではありませんが、そのメッセージは明らかです。

そのような旗を、戦後ドイツが国を挙げて何よりも優先してきた民主主義の中心的存在である国会議事堂の入り口でなびかせるのは、ドイツで暮らす多くの人にとって、そしてメルケル内閣にとって非常にショッキングです。多くの政治家がSNS上で「あってはならない」と表明しています。ジャーナリストでラジオ局rbbレポーターのオーラフ・ズンダーマイヤー(Olaf Sundermeyer)の言葉を借りるなら「全ての極右的思想を持つ人が待ち望んでいた光景」は、屈辱的とさえ言えると思います。

これは現政府のコロナ政策に対する不満だけを表明しているとは到底考えられません。これが、ただの反マスク運動ではないと言われる理由のひとつです。

シュタインマイヤー大統領のコメント

Reichsflaggen, sogar Reichskriegsflaggen auf den Stufen des frei gewählten deutschen Parlaments, das Herz unserer Demokratie – das ist nicht nur verabscheuungswürdig, sondern angesichts der Geschichte dieses Ortes geradezu unerträglich.

-Bundespräsident Frank-Walter Steinmeier

意訳:国民によって選ばれたドイツ議会の前、我々の民主主義の中心である場所にドイツ帝国旗、ましてやドイツ帝国軍軍旗を掲げることは、この土地の歴史を考えれば軽蔑すべき行為に留まらず、許されることではない。

極左から極右まで「異様な取り合わせ」

新聞社「taz」の見出しにもなっていましたが、今回のデモ参加者の属性は「異様」とも言えるくらいバラバラです。

「感染者がこんなに少ないのにこんなに規制があるのはおかしい!」「イタリアであんなにたくさんの人が”同じ”ウィルスで亡くなっているのに、ドイツではこんなに少ないでしょう?何かがおかしい」「いつまで家族は離れ離れで顔も見られない日々が続くの?」「マスクをつけながら遊んでいる子供達が不憫でならない!」「毎日同じことしか言わない。つまらないし、メディアなんて嘘つきじゃん!」「コロナなんてビル・ゲイツが仕組んだ陰謀だ!」「ドイツ帝国を再び!」などなど幅広い。

最も危惧していることとは?

主義主張が違う、ともすれば相反する(例えば、排他的・極右的な)思想の持ち主が同じデモに参加して、下手すると隣を歩いている・・・?しかも、大して気にしていない・・・?これは極右的思考を助長するのでは・・・?

どのメディアでも問題視しています。だからこそ、対抗デモの参加者は「あなたたちは、ナチスやファシストと行進している」と訴えていたのです。

これは、今までになかった現象だと言われています。思想の自由が認められている以上、排除することは法が許しません。しかし、ドイツが背負っている歴史を鑑みれば極右的思想は到底許容できるものではなく、共通の戦うべき相手だったはず。近くにいたら拒絶反応を起こしてもおかしくない教育を受けてきているはずなのです。世界に類を見ない連邦政治教育センターは反ナチズム・民主化の為にに設立されたものです。が、その考え方に変化が起きているのではないかと懸念されています。

それは、デモ参加者インタビュー(「自分はネオナチじゃないし、関係ない」「一人も見かけていない」)でも見受けられたし、Querdenken 711代表バルヴェークのコメントにも現れており、彼は「国会議事堂で起こったことに関しては、うちは無関係だ」と向き合おうとしていません。

また、バルヴェーク氏に関しては「無関係だ」「極右とは距離を置く」と言っているものの、彼らの目的はメルケル政権打倒にあるので、その為なら極右と結果として結託することも厭わないという趣旨の発言をしています。反ユダヤ主義者との繋がりなども見えてきました。また、極右サイドの”国民の教師”VolkslehrerもQuerdenken 711との繋がりを示唆しています。

極右的思想に代わって政府が共通の敵になってしまうのか?

この現象についてZDFでお馴染みのジャーナリスト、ドゥンヤ・ハヤーリDunja Hayaliは自身のブログでこう語っています。

Was wirklich verstört, ist, dass es den Anständigen bei der Demo erneut völlig egal zu sein schien, mit wem sie da mitlaufen.(…)Die Extremen an den Rändern wissen all das zu nutzen. Sie nutzen die Trägheit und Kritiklosigkeit derer aus, die an ihrer Seite auftreten und suggerieren damit, dass ihre in Teilen staatszersetzende Idee viel mehr Unterstützer hat, als dies tatsächlich der Fall ist. Und die Mitläufer legitimieren diese größenwahnsinnige Haltung.

意訳:本当に理解できないのは、デモ参加者が他の参加者に関心がないことだ。(…)極右的思想の持ち主は、それをどう利用すればいいのかよくわかっている。惰性と考えることを放棄した人に対して、自分たちの考えの方がより多くの人に支持されているように見せかけるのだ。何もしない人は、こうした行為に加担することになる。

Zeit紙も似たような分析をしています。極右グループは他のグループのデモに忍び寄って、志は同じ(=打倒政府)であるかのように見せる戦略を取っていると指摘しています。そうすることによって、彼らは世間に受け入れられる。それが狙いだ、と。

また、シュタインマイヤー大統領は次のように述べています。

Wer auf den Straßen den Schulterschluss mit Rechtsextremisten sucht, aber auch wer nur gleichgültig neben Neonazis, Fremdenfeinden und Antisemiten herläuft, wer sich nicht eindeutig und aktiv abgrenzt, macht sich mit ihnen gemein.

-Bundespräsident Frank-Walter Steinmeier

意訳:極右的思想を持つ人と並んで歩いている人だけでなく、なんの考えもなくネオナチ、排他的思想、反ユダヤ的思想を持つ人の隣を歩く人は、積極的且つ明確に違うと示さなければ同じである。

決して同じ理想を追い求めているわけではなくても、私は違う・関係ないと思っていても、何も言わずに同じ場所にいたら同じとみなされてしまうし、それを知らず知らずのうちに悪用されてしまうことを忘れないで欲しいという意味なのだと思います。

私もこの現象がとてもショックでした。反政府派グループは自分達の影響力を高める為に意図的に動き、支持者を利用しているようにしか思えません。

一人一人の主体性が失われてしまうのではないか?自分の意思で行動していると信じて疑わないマリオネットが生まれて、民主国家を揺るがす事態になるのではないか?自分の思想に近いと思って支持していたら実はそんなことはなく、結果として極右勢力に加担してしまっていたなんてが大いに起こり得ます。これこそがドイツが何よりも恐れていることです。

今後予想される葛藤

後日、SPD幹事長クリングバイル氏は、ARDのインタビューで国会議事堂で起こった帝国旗騒動は「民主主義への攻撃」であり、今後の課題として、どんな基準を満たしていれば許可してよいデモなのかどうか見極めていかなくてはならないと強調しています。

思想の自由・集会の自由が認められている以上、禁止することは民主主義国家としてはできない。がしかし、国民を煽るような言動や、民主主義への冒涜は絶対に許してはいけないし、コロナ規制を守らない人によって集団感染が引き起こされては街が機能しなくなってしまう。国民の生活をなんとしても守らなくてはならない・・・というギリギリのせめぎ合いの中で今後判断を下していかないといけない難しい時代に突入していると思います。

実際、今回のデモもベルリン市当局と行政裁判所によるボタンの掛け違いが発端だったとも言えますし・・・今後の動きにも注目していきたいと思います。

お礼

この記事を公開してから、本当にたくさんの人が読んでくださいました。ありがとうございます。アドバイスをくださった方もいらっしゃり、感謝です。中でもベルリン在住でライター&コーディネーターをしてらっしゃる河内秀子さん(@berlinbau)は、多くの参考記事を送ってくださり、twitter上でもメッセージ上でもディスカッションしました。ありがとうございました!ベルリンやドイツの情報をたくさん発信されているのでぜひチェックしてみてくださいね♪

河内秀子さん:berlinbau.net
twitter: @berlinbau

出典

日本語メディア

Yahoo!ニュース「独・ベルリンで“反マスク運動”3万8000人デモ

毎日新聞「ベルリンで「反マスク」デモ激しさ増す 市は禁止も裁判所が許可

BBC
ドイツで「反コロナ」デモ 新型ウイルス規制などに抗議、300人逮捕
ドイツの新型ウイルス対策抗議デモ、国会議事堂狙った動きに非難

CNN「政府の新型コロナ対応に抗議デモ、警察が中止命令 ドイツ

ドイツ語メディア

ARD
Steinmeier nennt Proteste “unerträglich”
Die Gefahr unterschätzt?

Deutsche Welle
Verbot von Corona-Demo: “Jetzt erst recht”
Richter kippen Verbot von Demonstration gegen Corona-Politik
Gericht erlaubt Demo gegen Corona-Politik
Der Tag vom 29.08.2020」(動画)

Deutschlandradio「Welche Flaggen sind erlaubt, welche verboten?

taz「Absurdes Nebeneinander

rbb「Fast 40.000 Menschen bei Corona-Demos – Sperren am Reichstag durchbrochen

WELT「Querdenken-Initiator distanziert sich von Demonstranten am Reichstag

Zeit「Kein Mindestabstand zu Neonazis

連邦政治教育センター「Das Coronavirus und die Grundrechte

Dunja Hayaliブログ 「#B2908 – (K)EINE NORMALE DEMO?!

おまけ:8月1日のデモに関して

ハヤーリの8月1日のデモレポート(動画)では、彼女が様々なデモ参加者にその理由や不満をインタビューしているのですが・・・こちらも参加者の言い分はバラバラ。レインボーフラッグもあれば、黒・白・赤をなびかせる人もいて、また「自分は超左寄りなんだけど、その旗を出すのやめてくれない?マジで怖いんだけど」と同じデモに参加している人に交渉するシーンも・・・。この時からすでに参加者の幅が極左から極右まで広がっていたことが分かります。

もうひとつ印象的だったのは「メディアは毎日コロナのことばかり放送する。すごく一方的だよね。」「メディアが国民を分断している!」「あなたたちは本当のことを放送していない!」「参加した極右グループはあなた達が連れてきたんでしょ?」というメディアを目の敵にしているような意見が少なからずあったこと。Lügenpresseという言葉が目立ちました。批判的な視点は良いとして、対話にまったく応じないインタビューイーも多く、自分の言論の自由を主張しながらメディア関係者とはいえ相手の言うことに耳を貸さないのも矛盾しているなぁ、など、思うことはたくさんあります。

タイトルとURLをコピーしました