映画レビュー:「名もなき生涯」

映画

映像作家テレンス・マリックの最高傑作という評価もあり、カンヌ国際映画祭ではエキュメニカル審査員賞を受賞した本作。

先日terminalFM FUJIでも紹介した「ジョジョ・ラビット」と同じく第二次世界大戦下のドイツを舞台にした映画だが、切り口もテーマも全く異なるところにも注目したい。

あらすじ

本作の主人公は、オーストリアの山と谷に囲まれた美しい村で愛する家族と暮らす農夫、フランツ・イェーガーシュテッター。実在の人物だ。彼は、ヒトラーへの忠誠を誓う署名を頑なに拒み、収監され、最後には死刑宣告を受け、ギロチンで処刑されてしまう。

自分の犠牲は戦争終結へ向かわせるほどの力があるわけでもないし、誰かの役に立つわけでもない。それどころか、愛する家族に迷惑をかけることになる。それでもなお自分の信念と良心を守ろうとするフランツの真意とは?妻と夫の書簡を使って、それぞれの視点で葛藤が語られる、不屈の愛の物語。

地元の人以外はその存在すら知らない、この映画がなかったら忘れ去られてしまったであろう、文字通り”名もなき”一人の男の生き様を描いている。

感想

ストーリーはシンプルだ。一人の男が、反ナチス行動を取り、最後まで考えを改めなかった為に処刑される。それを3時間かけて描くというのだから、どんなエピソードが潜んでいるのだろうか・・・?と思っていたが、(良い意味で)期待が外れた。

まず、これは映像と音楽を楽しむ作品であるということ。雄大な自然と、フランツ・ファニ夫妻の愛に溢れた慎ましくも豊かな生活が美しすぎる。ほとんど太陽光で撮ったらしい。映像とジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽がお互いを引き立て合っていて気持ち良い。音楽はオーケストラベースで、村の環境音も混ぜ合わせてあるのが自然。

個人的な趣味だが、好きな役者さんが多かった。好きなシーンは、フランツとファニの最初の再会シーン。言葉も殆ど交わさないし、ロマンチックですらない素朴な描写なのだが、二人の心がみるみる満たされていくのを感じて、見ている自分まで幸福感に包まれる。ここで二人の強い絆を感じないと、この映画は成り立たないかもしれない。

もうひとつは、裁判のシーン。休憩時にフランツとルーベン判事が二人だけで言葉を交わす。時間にすると2~3分?短いシーンだが、この映画の本質的な部分を表す大切なシーンだと思う。

軍服に身を包んだルーベン判事が「Do you want to judge me?(=あなたは私を批判するか?)」と問う。フランツは些か驚きを隠せない表情で「とんでもない」と答える。自分の抵抗が何かを変えるなんて思っていない。ただ保身の為に他人の家族を殺してもいいとは思えない、自分の心が違うとわかっていることはできない、ただそれだけなのだと言う。それを受けたルーベン判事の表情はとても複雑だ。フランツの純朴さに心打たれているようにも見えるし、安堵しているようにも感じ取れる。

当時の判事としては死刑判決を下す以外の選択はなかったのだろうけど、様々な感情が渦巻いて当然だろう。善人を裁かなくてはならない苦悩、とはいえ反政府的な人間には生きづらい世の中で、命に執着もなく信念を貫き通すことが自由であると悟っているフランツにとっての「最善」はなんなのか?今は亡きブルーノ・ガンツの演技にはぐっと来るものがあった。

ナチス映画も変わりつつある

また、強く感じたことは、いわゆる「ナチス映画」が変わりつつあるということ。今までは第二次世界大戦かのドイツを舞台にした作品は、絶対的な悪に立ち向かっていくヒーローたちの苦悩と解放や勝利を描いたものが多かった。ドイツ出身の人間としては、どうしてもちょっと斜に構えてしまうのは認めざるを得ず、自分の勉強不足を踏まえても、時々「これは史実?演出・・・?」となってしまうこともあった。

それが近年変わってきている気がする。第二次世界大戦をテーマに(当然これは語り継がれていくべき)、もっと本質的で、現代にも通じる普遍的なヒューマンドラマを描くことにフォーカスしているように感じる。「名もなき生涯」もそうだ。

群衆心理、ピアプレッシャーによる弊害、人はどうして熱狂するのか、何に駆り立てられるのか。今の私たちと何が違うというのだろう?

おわりに

3時間という長編映画で、ほんのちょっとだけ長い気もするが、時の流れについていけたのが逆に良かったようにも思う。「人間の内面を豊かに描いた作品」に贈られるエキュメニカル審査員賞の名に恥じない素晴らしい作品でした。

好みは分かれるところだと思うので、単館系や、カンヌで評価が高い映画が好きだという自覚がある方向け。そして、見るなら巨大スクリーンで見た方が満足度は高いと思います。

 

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