映画レビュー:2人のローマ教皇

緊急事態宣言が解除され、再び以前の日常生活が一気に戻ってきたような感じがしますね。しかし・・・同じ人間であるはずなのに、巣篭もり期間中にどこか変わっている自分を発見した方も多いのではないでしょうか。世界だけではなく自分も変わってしまっている。今日は心や価値観の変化についていけない時に観たい映画『二人のローマ教皇』を紹介します。

テイストとしては、『最強のふたり』『最高の人生のみつけ方』『英国王のスピーチ』にちょっと似ているので、このあたりが好きな方にはおすすめです。テンポがよく、緩急のつけ方が絶妙で大好きな映画のひとつとなりました。キリスト教のことをそんなに知らなくても楽しめると思います。

目次

キャスト

ベネディクト16世:アンソニー・ホプキンス
『羊たちの沈黙』のレクター博士のイメージが強いですが、ご本人をも思わせる熱演。

ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ:ジョナサン・プライス
最近だと「天才作家の妻 40年目」が印象的ですね。パイレーツオブカリビアンにも出てたり、ゲーム・オブ・スローンズもそういえば・・・!こちらもすごいよかったなぁ・・。

監督:フェルナンド・メイレレス
リオデジャネイロのファヴェーラ(スラム)の子供達の抗争を描いた『シティ・オブ・ゴッド(2002年)』は世界中で高く評価されていますね

脚本:アンソニー・マッカーテン
「ボヘミアン・ラプソディ」「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」「博士と彼女のセオリー」など

あらすじ

まずは、状況説明(実際に起こった事柄)から。
ローマ教皇は、カトリック教会の最高位聖職者のことで、コンクラーベで選出されたらその任期は生涯続く・・・のが今までの”当たり前”だったのですが、2013年2月、前のローマ教皇ベネディクト16世による辞任表明は世界を揺るがすニュースとなりました。彼は名誉教皇となり、次の教皇にベルゴリオ枢機卿が選出され、異例づくめの中新教皇フランシスコが誕生します。

それにしても、ローマ教皇の生前退位は、歴史上極めて異例の出来事、600〜700年ぶり(解釈の仕方による)だったので、何がそうさせたのか・・・?一体何があったのか・・・?そんな知られざるローマ教皇の心境にスポットライトを当てて作品にしたのがこの映画『2人のローマ教皇』なのです。(※映画はフィクションです!!)

前置きが長くなりましたが・・・

2013年、退位直前のベネディクト16世とベルゴリオの二人の対話を中心にストーリーが進んでいきます。なぜ、二人は話しているのか?元々はベルゴリオは枢機卿の職を辞任することを願い出ており、ベネディクト16世を説得する為に会いに行きます。

が、ベネディクト16世は、彼の辞任がカトリック教会への批判と取られることを恐れていると取り合ってくれない。何度切り出してもうやむやにされてします。ただでさえ、カトリック教会が直面している同性婚・中絶(教義的には認めるのが難しいが、時代の流れには逆らえない)などのテーマにしても意見が全く合わない二人。

そんな二人ですが、対話を重ねる毎に、自分たちの思いの行き先は同じだと言うことに気が付いてゆくのです。それが、ベネディクト16世の辞任表明に繋がった、という筋書き。

印象的なシーン 告解

システィーナ礼拝堂で告解するシーン。

そもそもキリスト教・・・中でもカトリックは”赦しの教え”なのではないかと私自身は捉えています。罪を犯しても、それを告白し懺悔することで許される。

マルティン・ルターはそれに疑問を感じて、宗教改革の末にプロテスタントが誕生するわけですが(彼の時代には免罪符が発行されてたくらいですしね。笑)、同じカトリック内でもベルゴリオ枢機卿もバチカンの聖職者による性犯罪に対する対応には強い疑問を抱いていて、「罪を告白して救われるのは罪人だけだ!被害者の傷は癒えない!」と面と向かってベネディクト16世に反論するシーンもあります。

そんな二人が、それぞれ自分の罪を告白し、赦し合います。

ベルゴリオは、アルゼンチンの軍事政権時代に自分の仲間を守り切れなかったことに対する負い目を告白し、教皇はバチカンスキャンダルの中でも世界を震わした聖職者による性犯罪に対し、情報が上がってきていたのにも関わらず関心を持たずに処理したことを打ち明けます。

それは同時にベルリゴリオにとっては「辞めることを止めて前に進もうとする覚悟」、ベネディクト16世は「自分が辞める覚悟」を決めた瞬間でもあるので。全ては教会の未来のために。ひいては世界のために。

赦することで幸せに?

これはフィクションなので、実際どのような経緯で辞任という道を選んだのかはわかりませんが、この映画を観て・・・

新型コロナウィルスと共に生きてゆかねばならない私たちには、いま、正解がありません。昨日まで正しかったことも、今日は間違っているかもしれないし、世界も自分も高速で変化し続けている中で共生って違う価値観の人を受け入れるとか、寛容であろうとするとかって次元じゃないと思うんです。そんな考えている余裕も時間もない。だからこそ、赦すという行為の愚直でありながらも、より幸せに生き延びるためのヒントがあるんじゃないかとインスピレーションを受けたのでした。

印象的なシーン2 デリバリーピザ

その赦し終わった後、二人は一緒にデリバリーしてもらったビザとレモネードを一緒に食べます。それまでベネディクト16世は一人で食事をするのが常であったのに、大きな心境の変化です。そのシーンもすごく微笑ましくて大好きなんです。

印象的なシーン3サッカー観戦

最後のW杯でドイツ対アルゼンチン戦を二人がテレビ観戦するシーン。エンドロールが流れ始めるのでおまけくらいなのかもしれないけど、二人のおじいちゃんが一喜一憂している様子もとっても可愛いです。ドイツが勝つところまで入れているのは、またベネディクト16世にちょっと花を持たせているのかなと製作者の意図をちょっとだけ感じたり。

ちなみに、一緒に観戦したという記録はないそうなので、創作の可能性が高いです。

その他、見どころ

言語好きとして、唸らずにはいられない主演俳優二人の芸達者ぶり・・・。聖職者たちは4〜7ヶ国語くらい話せるのが普通なのですが、映画の世界でそれを再現することはそう多くないでしょう。ですが、それを徹底しているところはすごいです。

ベネディクト16世は、ドイツ出身。言いにくいことはなんでもラテン語で言う。自身の辞任表明もラテン語で行ったため、(映画の中では)寝ている人もいれば、聞いてもわかんない人が隣の人に聞いていたり、ざわざわざわざ(笑)

ベルゴリオは、アルゼンチン出身。サッカーとタンゴが大好き。パブリックビューイングに行っちゃうくらい、庶民派。

それぞれドイツ語訛り、スペイン語訛りの英語で会話しているんです。でもね、よく考えてみてください。二人ともイギリス人なんですよ(驚)そんなことエンドロール見るまで忘れてしまうくらいのこだわりに脱帽。そして、多言語での演技も本当にすごすぎます。

ちなみに、ラテン語は今勉強しても”読み書き”だけなので、話すという練習はしません。なので、勉強していたって話せないのが普通です(笑)

あと大きな声で言えないけど、コンクラーベのシーンが・・・サンタクロースたちに見えてしまって仕方がないのでした(笑)(ABBAのダンシングクイーンがかかってるから厳粛さはいい意味で軽減されている)

その他、映画レビューはこちらから読めます〜

http://erinawataya.com/movies-books/

 

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この記事を書いた人

ドイツ生まれ・育ちのラジオパーソナリティー ・マルチリンガルMC ・通訳。27歳で日本に移住。現在TOKYO FM・JFN・NHK Eテレ(「旅するためのドイツ語」)にレギュラー出演中。

今までに勉強した言語は、日本語・ドイツ語・英語・ラテン語・フランス語・スペイン語・韓国語・中国語の8ヶ国語。

ペンギン・猫・映画 ・DIY・どら焼きが好き。

FM BIRD所属。

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