今日は、映画「17歳のウィーン ~フロイト教授の人生のレッスン~」を紹介します。ネタバレはないので、映画を観る予定の方も大丈夫です。また、気になるドイツ語のセリフも少し書き起こしてみました。
基本情報
2018年 オーストリア・ドイツ合作
監督:ニコラウス・ライトナー
原作:ロベルト・ゼーターラー『キオスク』
原題:『Der Trafikant』
出演:ジーモン・モルツェ、ブルーノ・ガンツ、ヨハネス・クリシュ、エマ・ドログノヴァ他
7月24日公開
Trafikantという言葉について
オーストリアのドイツ語で、タバコや雑誌などを売っているキオスクを営んでいる人のことを指し、イタリア語の交通・商売という意味のtraficoから来ていているそうです。ドイツ語にはない表現なので、思わず調べてしまいました。ドイツ語ではこうしたお店のことはKioskというのが一般的だと思います。
あらすじ
時は1937年。第二次世界多選の少し前、ナチスの勢力が拡大し、オーストリア併合直前の激動のウィーンを舞台に物語は繰り広げられます。当然、政治的混沌は市民の人生に強く影響します。ちなみに、かの名作「サウンド・オブ・ミュージック」と全く同じ時代!
主人公のフランツは17歳の若き青年で、アッターゼー(Attersee)というのどかな村から、ウィーンに出てきます。気難しいものの心優しいタバコ屋(Trafik)のオットーの元、仕事を覚え、初めての恋をして、悩み、苦しみ、複雑さが増す世の中で自分の生きる道を見つけ、ひとりの大人へと成長する物語です。
そして、タバコ屋の常連である世界的に有名な精神科医ジーグムンド・フロイト教授との出会いと友情を描いた作品でもあります。ここがこの作品のユニークなところ。
というのも、この映画では、フロイトだけが唯一の実在の人物で、それを演じたのが今は亡きブルーノ・ ガンツ。以前、「名もなき生涯」という映画のレビューでもその演技や存在感に感銘を受けたと書きましたが、本当に素敵な俳優さんです。
フランツは、フロイト教授に悩みを打ち明け、アドバイスを求めます。フロイトはすでに82歳で、癌を患っていたこともありますが、なにより、ユダヤ人である彼にとっては生きづらい政治情勢で、塞ぎがちだったのが、まっすぐで気立ての良いフランツにフロイト自身も救われ、明るさを取り戻していきます。(※フロイトは1938年にロンドンに亡命しています)
セリフ書き起こしその1:「フロイト教授の最初の処方箋」
フランツが一目惚れをした女性の名前も住んでいるところもわからず、どうしたら良いものかと、ふさぎこんでいた時に教えてくれたこと。
まずは、ドイツ語で!
Ich verschreibe dir jetzt drei Rezepte, mündlich.
Das Erste gegen dein Kopfweh. Hör auf über die Liebe nachzudenken.
Das Zweite gegen dein Bauchweh und die quälenden Träume. Leg dir Papier und Feder neben das Bett und schreib sofort nach dem Aufwachen alle Träume auf.
Drittes Rezept gegen dein Herzweh. Hol dir dieses Mädchen zurück oder vergiss sie.
翻訳するとこんな感じです。
これから、三つの処方箋を書こう。口頭で。
1つ目は、君の頭痛に効く。愛について考えるのをやめなさい。
2つ目は、腹痛と君を苦しめる夢に効く。枕元に紙とペンを置いて、起きたら、夢を書き留めなさい。
3つ目は、心の痛みに効く。その子を探し出すか、忘れなさい。
このアドバイスを受けて、フランツはノートに夢を書き留め始めます。フロイトということで夢はとても大切な要素で、とても幻想的な演出となっています。そして、そう、ここ重要。その女性を探し出します。彼女は、ボヘミア出身で、アネシュカという名前でした。
この部分を音声付きで聞きたい方はこちら
セリフ書き起こしその2:フロイト教授の恋に関する解釈
アネシュカと出会う前のエピソード。「私の本なんか読まずに恋をしなさい」とフロイトは言います。まだ恋に落ちたことのなかったフランツは「そんなこと言っても恋なんて分からない」と反論。それに対し・・・
Man muss nicht das Wasser verstehen, um hineinzuspringen.
水に飛び込む時に水のことを理解するか?
と言っています。
セリフ書き起こしその3:オットーの仕事の流儀
オットーの店には様々な人が客としてやってきます。思想も違えば、社会的ステータスも違う人たちが集う。もちろん、少し他人には言えない、特殊なニーズを持つ人だっている。オットーは自分の仕事について、戸惑うフランツにこう言います。
Ein Trafikant verkauft Genuss und Lust.
タバコ屋が売るのは、味わいと快楽だ。
自分たちが売っているのは確かに形のある商品だが、彼らが求めているのは味わいと快楽なのだ、と。それを汲み取ってこそ一人前のTrafikantであるというのです。
終わりに
不安定な今の世の中に生きる私たちに何かを教えてくれる、そんな映画。正解なんてないけど自分を信じる道を行くことが大人になるってことなのかもしれません・・・。ラストは救いなのか、そうでないのか、あなたはどう感じるでしょうか?