本レビュー:「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」

週末に読み終えて早くレビューを書きたかった「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ著)」!

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私自身もアジア人としてドイツで生まれ育ち、息子さんと境遇が似ている部分もあるので、共感する部分もたくさんあったし、逆にそんなことが?!と驚く部分もありました。

また常識に囚われない親子の会話や、息子さんの聡明さと、柔軟な考え方にハッとするばかり。

目次

はじめに

書店では今でも平積みになっているのでご存知の方も多いと思いますが・・・この本の概要。

優等生の「ぼく」が通い始めたのは、人種も貧富もごちゃまぜの
イカした「元・底辺中学校」だった。
ただでさえ思春期ってやつなのに、毎日が事件の連続だ。
人種差別丸出しの美少年、ジェンダーに悩むサッカー小僧。
時には貧富の差でギスギスしたり、アイデンティティに悩んだり。
世界の縮図のような日常を、思春期真っ只中の息子と
パンクな母ちゃんの著者は、ともに考え悩み乗り越えていく。

全く同じシチュエーションと遭遇する可能性は極めて低いでしょう。でも、自分を投影してしまった読者は多いはず。その理由は、恐らく、『私的で普遍的な「親子の成長物語」』だから。

目次

1 元底辺中学校への道

2 「glee/グリー」みたいな新学期

3 バッドでラップなクリスマス

4 スクール・ポリティクス

5 誰かの靴を履いてみること

6 プールサイドのあちら側とこちら側

7 ユニフォーム・ブギ

8 クールなのかジャパン

9 地雷だらけの多様性ワールド

10 母ちゃんの国にて

11 未来は君らの手の中

12 フォスター・チルドレンズ・ストーリー

13 いじめと皆勤賞のはざま

14 アイデンティティ熱のゆくえ

15 存在の耐えられない格差

16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン

印象的な箇所

クールなのかジャパン

でも、実は三つ目の考え方もある。『ニーハオ』ってのは英語で言えば『ハロー』のことでしょ。だから、中国人には中国語で挨拶すればフレンドリーだなって思われてお金をもらえるんじゃないかというビジネス的な理由から彼は『ニーハオ』と言ったのかもしれない」p.123

 

『意外と根深いニーハオ問題』より。私自身、客引きの人に「ニーハオ」と言われる度に戸惑います。シチュエーション、声のトーン、表情などにもよりますが、正直全く刺さらないんですよね。でも、それは中国語だからではなくて、「コニチワー」と言われても同じです。

それは何故か?

これだけで記事が書けそうなくらい、深いテーマですが・・・ドイツでそう言われると疎外感を感じるからなんだと思います。変な話ですが、ドイツで生まれ育ったのに外国人扱いされることが実は嫌なのかもしれないし、おちょくられたような気がしてしまう被害妄想なのもしれません。(宿題にしておきます。)

一方で・・・その人が私の顔を見たその一瞬でそこまで計算しているとは考えにくい。となると・・・「東アジア出身の人かな?!→中国人?韓国人?日本人?→わからん!→人口比率的には中国語で話しかけるのが合理的」だったのかもしれませんし、ニーハオが一番ポピュラーなだけかもしれません。

いずれにせよ、一番”気を引ける方法”として選んでいた可能性が高いと考えるのが自然ですよね。パーソナルに受け止めるのはナンセンス。

『W杯とミスター・ミヤギ』

アイルランド人と日本人を両親に持つのだからと、日本を応援することにした息子さん。(アイルランドは出場できなかった)しかし、敗退した途端にイングランドに乗り換える姿に、多様性の強みってここなのかも、と感じるブレイディさん。因みに、親しみを感じているからなどの理由から応援する気持ちを『市民的ナショナリズム』と言うそうです。

私も、ドイツと日本、どちらを応援しているのかよく聞かれます。特に他意のある質問ではないことはわかっていますが、どうして『どっち』かを選ばなくてはならない質問をされるのか不思議で。両方じゃダメなの?日本とドイツが対戦になったらどうする?なんて今から考えなくても良いじゃない、なんて。

ちなみに、ドイツにいる時はドイツを応援する方が盛り上がるのでドイツを応援していました(笑)が、女子サッカーは断然なでしこ!これは自分が女性だから関心もあるし、より身近に感じるからなのかもしれませんね。ものすごく都合が良いけども(笑)

母ちゃんの国にて

なぜ言葉の通じない者どうしがそんなことができるのかというと、彼らは、言語的に互いに迎合しようとしないからかもしれない。(略) 親父は博多弁でべらべら喋っているし、息子は息子で英語でべらべら喋り返しているので、会話が成り立っていないくせに、時おり(略)日本語と英語で絶妙なシンクロを見せていることがあり、p.147

 

私自身は言葉を勉強することが好きなので、ついつい言葉の力を借りすぎるところがあります。がしかし、メラビアンの法則によれば「コミュニケーションで言葉によって伝わるのはメッセージの7%」と言われるくらいですから、私たちはもっと言葉以外にも注意を払うべきなのでしょう。先日紹介した村上祐資さんの「言葉が強くなると分断する」というお話にも通じることなのかもしれません。

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そして、ギムナジウム時代からの親友を連れて日本旅行をした時のことを思い出しました。大好きな大叔母(以前登場した親戚のヒロトくんのおばあちゃん!)の家に泊めてもらったのですが、大叔母のおしゃべりが止まらない止まらない。しかも全部加賀弁!(笑)私もできる限り訳そうとしたのですが追い付かない!あとで親友にどれくらい理解できていたのか聞いて見たところ、「大体わかったよ。面白いおばさんだね^^」と言うのだから驚きです。コミュニケーションってやっぱり空気。”気”は伝染する。

 

「それもなんか、僕は違和感がある。半分ってのはひどいけど、いきなり2倍にならなくてもいいじゃん。『ハーフ・アンド・ハーフ』でいいんじゃない?半分と半分を足したら、みんなと同じ『1』になるでしょ」p.150-151

 

これはとても意見が分かれる問題だと思います。私個人のポリシーとしては、本人が自分のことをなんと表現しているかに注意してみる、または「お父様が〜出身で、お母様が〜出身」とか「AとBの両方をルーツに持つ」など、なるべく意識をするようにしています。

ちなみに、「ハーフ・アンド・ハーフ」は比較的よく耳にする表現のひとつです。ヨーロッパは陸続きなので、組み合わせも様々。個人的な経験から言うと、話題になる理由の多くは、その人が(私からすると)珍しいファーストネームだから、或いは、その人の好きな食べ物が私の全然知らないものだったり、外国の料理だから。

日本語だと、日本語話者である時点でかなりの確率で両親のいずれかが日本人である可能性が高いので省略してしまうのかな?というのが今のところの仮説です。

13 いじめと皆勤賞のはざま

「僕は、人間は人をいじめるのが好きなんじゃないと思う。…罰するのが好きなんだ」p.196

 

胸をぎゅっと掴まれた文。いじめるつもりはなくても、正義感溢れるいじめは世の中にとても多く存在しているように感じています。例え(法的に・自分が所属する社会的に)正しくなくても、自分が直接の被害者でないならば、一歩引いて「どうしてだろう?」とその人の立場になって考えを巡らせてみる・・・それがエンパシーなんだと思います。共感(シンパシー)は伴わなくても良くて、ひょっとしたら、こういう事情だったのかも?!と想像すれば、煽られ便乗して表面的な正義を振りかざすことは減る、かも。身勝手な怒りも然り。

14 アイデンティティ熱のゆくえ

「どこかに属している人は、属していない人のことをいじめたりする。それは悪い部分だよね。でもその反面、属している仲間のことを特別に守ったりするでしょ。生徒会長が僕に優しくしてくれるみたいに。でも、僕はどこかに属している気持ちになれないから、それがどちらもないんだ。悪い部分も、いい部分も、ない」p.220

一方で、母親のブレイディさんは

わたしはこの界隈でくらしている東洋人に対する帰属意識を持っているのだ。しかも、同じように差別された経験をもっていればもっているだけ、無意識のうちにもこの「仲間感」は強くなる。人種差別というものは、(略)レッテルを貼ることで、貼られた人たちを特定のグループに所属している気分にさせ、怒りや「仲間感」で帰属意識を強め、社会を分断させることにも繋がるものなのだ。p.220-221

 

マルチカルチュラルな環境で育った子供なら、恐らく誰しもが感じる、ある種の孤独。私もそうだった。人種のことなんて意識していなかった現地幼稚園から、日本人小学校に上がった時の「私と同じ日本人がたくさんいる!」という期待と、「どうやら私はみんなとは同じじゃないみたい」という絶望。でも、ドイツ人じゃないし、ドイツ語はどんどん忘れていくし・・・まあ、とはいえ、ドイツ寄りなんだろうなと思っていたら、その仮説は完全否定された現地ギムナジウム時代。

思春期ですね(笑)自分は一体何者なんだろう?と思うのはとても自然なことですが、周りに似たような境遇の人が少ないことが、若干大げさに捉えてしまいがちな理由なのかもしれません。

帰属意識というのも何となくわかります。ギムナジウムに編入した時は日本人の生徒を頼ろうとしたこともあったし(失敗したけどw)、大人になってからもアジアスーパーで同じアジア人という連帯意識のようなものはあった気がします。逆に、母の職場での話を聞いていると人種なんて関係なくて、ドイツ語が母国語じゃない人同士で仲良くなったりしたこともあったようですです。

でも、私の一番の拠り所は第3の文化「私の中の日本」。それが分かってからは、随分と心が楽になり、心の中の石のようなものが取れたような、軽やかな気分になったのでした。

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終わりに

Amazonのリンクにも感想がたくさん掲載されているので興味のある方は。誰が読んでも、どこかで気付きをもらえる一冊だと思います♬

公式アカウントからも反応が♡

 

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この記事を書いた人

ドイツ生まれ・育ちのラジオパーソナリティー ・マルチリンガルMC ・通訳。27歳で日本に移住。現在TOKYO FM・JFN・NHK Eテレ(「旅するためのドイツ語」)にレギュラー出演中。

今までに勉強した言語は、日本語・ドイツ語・英語・ラテン語・フランス語・スペイン語・韓国語・中国語の8ヶ国語。

ペンギン・猫・映画 ・DIY・どら焼きが好き。

FM BIRD所属。

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