#03 本レビュー:「水曜の朝、午前三時」

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夏・・・少しでも涼みたくてふらりと入った渋谷の本屋さんで”目が合ってしまった”「水曜の朝、午前三時(蓮見 圭一著)」のレビューを書いてみます。

 

・・・

 

歴史に”もしも”は無いにしても、”下さなかった決断”の行く末を考えてしまうのは人間の性なのでしょう。「有り得たかもしれない人生」がテーマ。少しヘビーだけど、爽やかさが残る。形なき大切な宝物を表現する世界観は、どことなく水色だ。

 

物語

45歳の若さで逝った翻訳家で詩人の四条直美が、娘のために遺した4巻のテープが物語のベースになっている。そこに語られていたのは、1970年、大阪万博のホステスとして働いていた23歳のお嬢様の直美と、将来有望視されていた理想の恋人・臼井礼との恋物語だった。

臼井のことを直美はスナフキンのようだと表現する。どこか謎めいた雰囲気を持つ彼と、まっすぐで未来に希望しかない(自信家でもある)直美は恋に落ちるが、とあることが理由で終わりを迎える。(これは物語の核となる部分なので是非読んで確かめてくださいね^^)その話をテープに直美が残すのだ。

プロットとしてはこれくらい。それぞれのキャラクターが背負っている家族の期待や、運命、思惑が複雑に絡みあって物語が進んでいく。直美の語り口が儚いようで鮮烈。そして、美しい。

好きなページ

「(略)それでもけして自分の知的確信の奴隷にはなれなかった。内心では花見客を馬鹿にしていながら、偶然に桜の花を目にして、その美しさに圧倒されたりしていたのです。ピアニストが毎日休みなく鍵盤を叩くように、私は人生の練習を続けてきたのです」—p.18

なんて美しい描写なんだろう・・・と思った箇所。そして、誰しもが感じた事のある、内面の矛盾の表現もまるで映画のワンシーンが浮かぶようで好き。直美という人物が浮かび上がってくる。

 

(略)下ろしたてのハイヒールを履いていたせいか、あちこちで躓いてしまった。きっと私は、高い木に登って困っている猫のように見えたに違いない。—p.168

 

知的でありつつも、感情に溢れた人物であり、それでいて可愛らしい。それが彼女の一番の魅力だったと臼井はは振り返る。・・・他にいないんだから、好きにならずにいられない、って究極の感情なのでは?世界にたった一人に会えた、そうお互いに思っていたからこそ出てくる言葉なのかも。

 

「直美さんは自分の気持ちを隠しきれない人だった。とても頭のいい人だったけれど、それ以上に感情の人だった。本当に、いまにも爆発してしまいそうな感情の持ち主でね。それが彼女の一番の魅力だった。(略)それでいて、ものすごく可愛らしいところもあった。そんな女に会ったのは初めてだったし、会うたびに圧倒されたよ。少なくとも俺にとってはそうだったし、君だってそう思っているんだろう?」

「ええ、正直に言うと、ずっと似た人を探していたんです。でも、あの人は他の誰にも似ていなかった」

「他にいないんだから、好きにならずにいられないよな」

「そういうことだと思います」—p.302

 

臼井礼との恋を忘れられない直美だが、だからといって、決して不幸だったわけではなく、結婚した夫や娘の葉子との生活が自分にとっての宝物であるとも断言している。その中でもとりわけ好きなのが、葉子の小学校受験に失敗した時のことを回想している、この話。

 

あなたは話しながら半分ベソをかいていたけれど、私は笑わずにいられなかった。(略)笑いすぎたせいか、そのうち涙まで出てきました。こんなふうにあなたは何度となく私を笑わせ、泣かせてきたのです。

(略)あなたが生まれたきた時からずっと夢中だったけれど、こんなことがあるたびに、ますますあなたのことが好きになっていった。(略)あなたのおかげで、そう、私は失敗を楽しめるほどに成長することができたのです。—p.93〜94

 

ひょっとしたら一番好きな箇所かもしれない?

終わりに

甘くほろ苦い。青春小説のような、どこか瑞々しさも感じる作品。偏見や差別といった社会的なイシューもあり、決して軽いテーマではないのだけれど、読後感はどこか爽やかで、間も無く朝が来るという希望も感じられるような、そんな作品。

季節的には、これから初夏にかけて読むと一番しっくりくるかも・・・?

備考

一度は絶版になりかけたらしく、今回の出版に至った経緯が書かれた記事。数は少なくても熱意ある有志によって再出版。なんて夢のある話なんだろう…✨

名作は、何度でもよみがえる。「もう絶版にはしたくありません」|Web河出
『水曜の朝、午前三時』という小説をご存知でしょうか?2001年に新潮社さんから刊行され、その後2005年に新潮文庫として発売になりました。当時は児玉清さんの推薦などもあり大ベストセラーになった小説です。1984年生まれの私は、恥ずかしながらこの作品の存在を最近まで知りませんでした。今年の春頃たまたま

 

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綿谷エリナがこれまで観た・読んだ作品(映画・本)のリスト。レビューも一部あり。

 

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