実はこのブログの中ではよく読まれている記事なのですが、ラテン語と聞いてもピンとこない方がほとんどだと思います。でも、ドイツ生まれであるにも関わらず、13歳にして初めてドイツ語を本格的に学ぶことになった私が留年もせず、アビトゥーアに合格し、ドイツの国立大学まで卒業し、更に今ではドイツ語通訳としてお仕事まで頂けるようになれたのは、ラテン語との出会いがあったからだと信じています。そんな経験談をシェアしようと思います。
ドイツ育ちなのにドイツ語ができない小学生時代
家庭も学校(日本人学校)でも日本語しか使わない環境で12歳まで育ちました。それでも、ドイツ語で自己紹介や簡単な日常会話はできたので、ギムナジウムに編入することが決まった時も楽観的だったのですが・・・想像以上に出来なさすぎて心が折れました(笑)問題がなかったのは発音だけで、一気にクラスの落ちこぼれになってしまいます。ドイツ語だけでも大大大ハンデがあるのに、2年分の英語の勉強も追いつかなければならないし、第二外国語(私にとっては第三外国語)も選択しなければならないし、他の教科の教科書を読むにしても一時間で1ページも読めないレベルで、勉強したくてもついていけないのが悔しくて仕方がない日々でした。
参考記事:「ドイツ育ちの私でも母国語は日本語です(前編)」
ラテン語のお陰でドイツ語も覚えられた
多くのギムナジウムでは、第二外国語としてラテン語かフランス語のどちらかを選べます。(稀に第一外国語として扱っている学校もあります。)ラテン語は「死んだ言葉だから勉強しても意味がない」と言われていますが、果たして本当にそう言い切れるのでしょうか?確かに、旅先でラテン語が必要になることはないでしょう。しかし、ラテン語を勉強していると他の欧州言語を習得するにも飲み込みが早くなるのは経験として実感していますし、難しい専門用語でもおおよその見当がつくようになります。英語も上級レベルになるにつれてラテン語由来の単語が頻出するのも事実です。
情報を正確に処理するクセが身に付く
ラテン語の授業は、基本的に単語を覚えて、文法をやって、文章をドイツ語に訳していくだけです。ドイツ語に訳すだけなら簡単そうに感じますよね?それが試験で20点しか取れない人も本当にいるのですよ、少なからず。それはなぜでしょう?一言で言うと、感覚に頼ってひとつひとつの情報を丁寧に分析していないからだと思います。(正確には、分析する為に暗記しなくてはならないのを怠っていたから、かもしれません。)
ラテン語とドイツ語(英語)の違い
ラテン語の特徴として次のようなことが挙げられます。
①ラテン語はドイツ語以上に語順の自由度が高い。
定番の並びというのはもちろんあるのですが、決まりはありません。作者の自由です。文学を読むとよくわかりますが、韻を踏ませる為にとんでもない順番だったりします。
これがどういう意味か分かりますか?裏を返せば、ドイツ語以上にラテン語は面倒臭いということです。文法的に指示しなくてはならないことが非常に多いのです。だから、あっちゃこっちゃに飛び散っていても回収できるのです。それを拾い集める作業が翻訳です。
②主語が省略されることが多い。
とにかく一番始めに主文の動詞を探すのが鉄則です。これを探し出して、誰が主語なのかを明確にします。始めは「三人称単数」という情報しかないかもしれませんが、主語を省略している場合は、絶対に前述であるはずなので少し遡って照合します。それでもみつからなかった場合は何かが間違っています。前の文章に戻った方が良いかもしれません。誰がアクターなのかをまずみつけだし、残りを組み立てていきます。
③単語の数が異様に多く、意味も多様。
ドイツ語は基礎語彙が少ないですが、ラテン語は比較にならないくらい多いです。なので、辞書を引くと意味も沢山あるのが常なのですが、その中でどれが一番適しているかをよくよく考えるようになります。慣れてくると勘も磨かれていきました。
④それぞれの格の役割がとてもはっきりしていて、塊で文章を見なければ繋がらない。
ラテン語には5格(Nominativ, Genitiv, Dativ, Akkusativ, Ablativ)あります。それぞれの格にはちゃんと役割があって、よくセットで一緒に出てくる動詞・前置詞などがあります。⑴や⑵とも繋がってくるのですが、誰が誰とセットで、どれがひとかたまりなのかを見るようになるのです。コンテキストを読むようになります。良い文章であればあるほど、単語の羅列なんてありえなくて、計算しつくされた構成になっています。それを文法という武器を通して分析していくのです。訳していく上でこの作業は一番肝の部分なので、適当にやると痛い目に遭います。
先生に恵まれていた
まるでパズルみたいだと思いませんか?謎解きのようですごく楽しくて、いつの間にか一番好きな科目のひとつになってました。(パズルが大好きで、暗記が得意な理数系の人は絶対向いてます。)実は、私が更にラッキーだった理由はもうひとつあります。それは、最高に良い先生と出会えたこと。厳しい先生でしたが、モチベーションをずっと高く保ち続けられたのは彼女のお陰です。具体的に言うと、試験答案の私のドイツ語がめちゃくちゃでも、勉強したことが明らかに見て取れる場合、その分の点数はくれたのです。初めて努力が報われた教科でもありました。私の解答用紙は、いつも先生の赤ペンが沢山入って真っ赤でしたが、そのほとんどは先生によるドイツ語の修正。それを全て清書し、先生に再び提出、また間違い箇所に赤ペンが入り、それをまた清書して・・・間違いがなく、完璧になるまでその作業が続きます。
ラテン語とは関係ないところで手間のかかる生徒に何年も付き合い続けてくれた先生には今でも感謝してもしきれません。お陰でドイツ語文法もかなり身についたと思います。 その後、フランス語・スペイン語も選択科目として取ったのですが、それほど苦労はしませんでした。話す練習が足りなくて(モチベーションも高くないし、余裕もないし。笑)ものには全然なっていませんが・・・。勉強し直したらば、今ならもう少し上達する気がします。(であってほしい。)
俯瞰で文章をみれるようになった
タイムマシンがあったとして、もう一度選べるチャンスが巡ってきたとしてもラテン語を選ぶでしょう。ラテン語を学んだことでどんな難解に見える文章でも解いていけるようになりましたし、何語にしても構造や構成を意識するようになれました。ドイツ語を教えていてよく感じるのが、ここなんですよね。文章の作り込みが足りていない。ドイツ語を学び始めた人がドイツ語をできないのは当たり前ですが、それ以前の問題です。「誰が?」「何をするの?」「この目的語はどこにかかってる?」「どうしてセットになっていないのかな?」とひとつひとつ聞いていかないとピンと来ないみたいです。こんなものは慣れですから、ラテン語とは言いませんが日本でもロジカルシンキングと教養を培う授業がもっとあれば英語の上達もしやすくなるのではないでしょうか。このあたりも考察したいところ。どこかで読んだのですが、外国語をなかなか話せるようにならないのは訳しやすい日本語で組み立てていないからという意見はすごく的を射ていると思う。
長くなりましたが、ラテン語は文法を理解できるようになるし、忍耐強く分析する力を培うのに良いです。また、一見泥臭くて効率が悪そうな作業が無駄ではない上に、力を付ける上で実用的であることを体で覚えられました。そして、響きがうっとりするほど美しい・・・
初学者におすすめなのはコチラ
カエサルの「ガリア戦記」
初級文法をマスターしたら、まずはこれから読むのが定番です。文学作品というよりも記録なので、内容がなんとなく頭に入っていれば意外とすんなりと読めると思います。
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